お酒になったお米たち

山形県の地酒に使用されているお米の解説です。酒造好適米だけではなく、食用米も日本酒に用いられています。
地元開発米の他、山形地酒で使用されている他県産のお米についても随時更新・解説していきます。


山形県産米

かめのお【亀の尾】 information
山形県在来種米 原品種名「亀ノ尾」
1893年 阿部亀治 山形県東田川郡庄内町余目

寒さに強い品種で、以後の東日本の米品種の母体となり、北国の米作に大きく貢献した米品種です。
近年、山形県で開発された米品種は、例外なくこの亀の尾の子孫です。
昭和に入り一度姿を消した幻の品種となりましたが、新潟の久須美酒造が復刻栽培してお酒を商品化した事で注目され、漫画「夏子の酒」のモデルとなりました。

明治 26 年、山形県の蔦農家、阿部亀治氏が冷害の中で、元気に実を結んだ3本の稲穂(異変株)を偶然に発見。この籾もみを原種として研究を重ね、4年をかけて新しい品種「亀の尾」を生み出しました。
味がよく収穫が多い「不世出の名酒米」とうたわれた「亀の尾」は、明治末期から大正時代にかけて三大品種の一つに数えられるほどに普及しました。
その後も育種関係者の注目を集めて現在の米の交配親となり、ササニシキやコシヒカリなどの優れた品種を世に送り出しました。耐冷性に優れる品種であったが、害虫に弱く、現代の農法には向かず、次第にその子孫品種などに取って代わられました。

山形県では亀の尾発祥の地「余目」の鯉川酒造が阿部亀治の子孫より一握りの亀ノ尾の種籾を譲り受け、栽培・商品化しました。
鯉川酒造をはじめ、多くの山形県内外の酒蔵が使用しています。

力強いドッシリとした味わいのお酒に仕上がる印象があります。


でわさんさん【出羽燦々】 information
酒造好適米 山形酒49号
1983年 山形県立農業試験場庄内支場

長らく長野県の美山錦を使用してきた山形県の醸造界は、地酒ブーム・吟醸酒ブームのなか、『地酒は地元産米で』という意見が高まって来ました。
新たに開発した山形酵母が高い評価を得たため、この山形酵母に合致した酒造好適米として、美山錦をベースに開発されました。
当初は精米歩合55%程度の純米吟醸を主体に醸造されていましたが、現在は純米酒から果ては精米歩合1%の超々精米歩合の純米大吟醸に到るまで、用途は多岐に渡ります。
山形県の酒蔵では例外なくこのお米を使用したお酒を醸しています。

「柔らかくて幅のある」のキャッチフレーズの通り、ベースとなった美山錦と比べて物腰柔らかな酒質とお米の程よい風味のバランスの良いお酒に仕上がる印象です。

また出羽燦々を使用した純米吟醸の内、品質基準を満たしたものには「DEWA33」の認定シールが貼付され、品質保証の目安となっています。


でわのさと【出羽の里】 information
酒造好適米 山形酒86号
2007年 山形県農業総合研究センター農業生産技術試験場庄内支場

「出羽の里」は出羽燦々に続いて開発された酒造好適米です。
山田錦の流れをくむ吟吹雪と、亀の尾を発端とした美山錦の流れをくむ出羽燦々の系譜です。
酒造りに適した米の中心部(心白)が大きく原料の米を効率的に使えるのが特長で、高品質で安価な日本酒の開発を目的に山形県工業技術センターが平成16年に採用したもの。
70%精米の純米酒で、酒本来の味が楽しめるお酒として開発されました。

出羽の里を原料にした酒は既に県内蔵元が製造し、23の蔵元が山形セレクションとして認定を受けています。

醸造に応じて濃厚な味わいにも軽快なお酒にも仕上げることができ、かつクリアな酒質を持ち合わせている印象です。


ゆきめがみ【雪女神】 information
酒造好適米 山形酒104号
2015年 山形県工業技術センター

「出羽燦々」「出羽の里」を開発し、ミドルクラスとエントリークラスの酒造好適米を開発した後、残るハイエンドクラスの酒造好適米として開発されたのが「雪女神」です。
今まで兵庫県の「山田錦」に頼らざるを得なかった「大吟醸用酒造好適米を地元開発・地元栽培で」との要望に応える形で登場しました。

後述の「出羽きらり」と併せて、普通酒から大吟醸まで、あらゆる価格帯・ジャンルの日本酒を山形開発・山形栽培米で醸造できる土壌が完成しました。その最後のピースを埋めるのが「雪女神」だったのです。

気品のある芳香を持ち、透明感ある酒質を持ち合わせている印象です。


さわのはな【さわのはな】
食用米 び系41号
1956年 山形県立農業試験場尾花沢試験地場

昭和 24 年、尾花沢にて農林 8 号を母親に、abc を父親として交配。 良質米の東の「亀の尾」、西の「朝日」を先祖に 持ち、コシヒカリのような系譜を持つ。 当時としては多収性があり、地元で注目されたが、 同時期に遥かに凌ぐササニシキの登場により程 なく消えていきました。
いもち病に強く、肥料も少なくてすむ事から、 減農薬栽培や有機栽培に最適な品種。
しかし稲が倒伏しやすく作りづらいため敬遠され生産量は多くないですが、その味の良さから農家の自家用米として細々と作り続けられています。
現在は男山酒造がこのお米を用いた純米酒等を手がけています。

醸造例が少ないですが、個人的にはあっさりとした酒質が印象的です。


たまなえ【玉苗】
酒造好適米 山形酒4号
1985年 山形県立村山農業高校

山田錦・金紋錦の交配種。高校で開発されたという珍しい経緯を持っています。
玉苗という名称がありますが「山酒4号」の名称の方が浸透しています。
朝日川酒造、秀鳳酒造、新藤酒造、冨士酒造にて使用実績があります。


でわきらり【出羽きらり】
酒造適正米 山形100号
2010年 山形県農業総合研究センター水田農業試験場

山形県では出羽燦々・出羽の里の開発により特定名称酒の地元産酒造好適米の使用率が上がりましたが、普通酒に関しては、はえぬき等の食用米を流用しているのが現状でした。
掛米用品種としてはトヨニシキや雪化粧といった品種があるものの生産量が少なく、『県独自の低価格な掛米用品種』として開発されました。
普通酒を中心に特定名称酒にも洌、秀鳳、杉勇、白露垂珠、初孫、俵雪、米鶴、出羽ノ雪といった銘柄にて使用実績があります。


とよくに【豊国】 information
山形県在来種
1903年 檜山幸吉 山形県東田川郡十六合村(現庄内町)

明治時代の篤農家檜山幸吉が「文六」の変異体を選抜して育成したものです。
大正初期の文献には、たんぱくが少なく他のどれよりも大粒で、心白が入りやすいと記され、「亀の尾」に匹敵する酒造好適米であったことがうかがわれます。
寒河江は草履表の生産が日本一で、稲わらのひときわ長い豊国がその原料として作付けされました。草履表の製造は、合成資材の開発とともに「豊国」も姿を消します。その「豊国」を酒米として甦らせたのが寒河江市の千代寿虎屋です。